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HIPSフィラメントの正体と使い方:ABS/PC造形に必須のサポート材を徹底解説

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3DプリンターでABSやPC(ポリカーボネート)といった高耐熱・高強度の素材を扱うようになると、避けて通れないのが「サポート材」の問題です。特にオーバーハングやブリッジが多い複雑な造形では、サポートの除去に頭を悩ませる方も少なくありません。そんなときに頼りになるのが「HIPSフィラメント」です。この記事では、HIPSがなぜABSやPCのサポート材として重宝されるのか、実際の溶解方法や注意点、さらに水溶性サポートのPVAとの使い分けまで、実践的な視点で解説していきます。

結論から言うと、HIPSはD-リモネンという溶剤で溶かして除去できるサポート材で、ABSやPCモデルの仕上がりを大きく向上させる選択肢です。ただし、造形自体の難易度は高めで、溶解工程にもコツが必要です。この記事では、メーカー公式の注意喚起や実際の製品スペックをもとに、失敗しないためのポイントを中心にまとめました。

HIPSフィラメントってどんな素材?ABS/PCユーザーが知っておきたい基礎知識

HIPSは「High Impact Polystyrene(高耐衝撃性ポリスチレン)」の略で、ポリスチレンにゴム成分を加えて耐衝撃性を高めたプラスチックです。3Dプリンター用フィラメントとしては、ABSやPCと同じく高温で造形する素材に分類されます。

この素材が特に注目される理由は、D-リモネンという柑橘系の溶剤に溶解するという特性にあります。つまり、ABSやPCで本体を造形し、そのサポート部分だけをHIPSで出力しておけば、造形後にD-リモネンに浸すだけでサポートを溶かし去ることができるのです。手作業でサポートを引きはがす必要がなくなるため、複雑な形状でもキレイな仕上がりが期待できます。

また、HIPSはABSと比べて収縮が少なく、軽量という性質も持っています(Prusa Knowledge Baseより)。そのため、サポート材としてだけでなく、単体での造形材として使うケースもあります。塗装や研磨(サンディング)といった後処理もしやすい素材です(Forward AM製品情報より)。

これがHIPSの推奨造形パラメータと製品選びのポイント

HIPSを実際にプリントするには、高温に対応した3Dプリンターと適切な設定が欠かせません。各メーカーの公開情報をもとに、代表的な造形条件をまとめました。

  • ノズル温度:250〜270℃(BASF Ultrafuse HiPSの場合、三次元工房の製品ページより)
  • ベッド温度:90〜110℃
  • プリントスピード:40〜80mm/s

ただし、これはあくまで目安です。製品によっては230℃程度の設定例もあり(キヤノンエコロジーインダストリー製HIPS)、使用するフィラメントの推奨値を最優先するのが基本です。実際には、温度タワーを出力して自分のプリンターに最適な温度を探すことをおすすめします。

また、HIPSはサポート材として使う場合、マルチマテリアル対応のプリンターやMMU(マルチマテリアルユニット)が必要になるケースがほとんどです。Prusa公式でも「サポート材としてのプリントは高難度」と明記されており(Prusa Knowledge Base)、最初から完璧を求めず、まずは単体での造形に慣れることから始めるとよいでしょう。

市場で手に入る主なHIPS製品

現在、日本で比較的入手しやすいHIPSフィラメントには以下のようなものがあります。

  • Ultrafuse® HiPS(Forward AM / BASF製):欧州の大手メーカー製で、安定した品質が特徴です。
  • HI-PS リサイクルフィラメント(キヤノンエコロジーインダストリー株式会社製):リサイクルプラスチックを100%使用した製品で、対応機種がUP300D、UP350D、UP600Dに限定される点が特徴です(Sunstella製品ページより)。
  • 3DSIMO用HIPSフィラメント:国産プリンターメーカー向けの製品も存在します。

これらの製品は、それぞれ推奨温度や対応プリンターが異なるため、購入前に必ずスペックを確認するようにしてください。

ここが難しい!HIPSの溶解工程で失敗しないための3つの鉄則

HIPSを使う上で最大の山場となるのが、D-リモネンによる溶解工程です。多くのユーザーがここでつまずくポイントでもあります。メーカー公式の情報をもとに、注意すべきポイントを整理しました。

① 浸漬時間は状況を見ながら調整する

D-リモネンにHIPSを浸す時間は、数時間から一晩程度が目安です。ただし、気温や溶剤の濃度、サポートの厚みによって所要時間は大きく変わります。「とりあえず一晩」と決め打ちせず、途中経過をこまめにチェックするのがコツです。

② ABSモデルも侵食されるリスクがある

ここが一番の落とし穴です。Prusa公式のナレッジベース(help.prusa3d.com)では、HIPSをリモネンに長時間浸すと、ABSモデルであっても層間剥離を起こす可能性があると注意喚起されています。HIPSだけが溶けるわけではなく、ABSの表面も溶剤の影響を受けるというわけです。

また、HIPS自体がアセトンにも溶解するという性質もありますが、アセトンはABSやASAも激しく溶かすため、絶対に使ってはいけません。溶解には必ずD-リモネンを選びましょう。

③ 廃液は産業廃棄物として適切に処理する

D-リモネンは天然由来の溶剤ですが、使用後の廃液はただちに下水に流したりせず、各自治体のルールに従って処理する必要があります。このあたりの手間も、HIPS導入前に考慮しておきたいポイントです。

HIPS vs PVA:どちらのサポート材を選ぶべき?

水溶性サポート材の代表格であるPVAとHIPSは、しばしば比較されます。ここでは、両者をいくつかの軸で比較してみましょう。

比較項目HIPS(サポート材)PVA(水溶性サポート材)
対応モデル材ABS、PC(ポリカーボネート)PLA(相性が良い)
溶解方法D-リモネン(溶剤)に浸漬水(温水推奨)
溶解の所要時間数時間〜一晩(状況による)数時間〜一晩(水温・撹拌による)
造形の難易度高難度(専用ユニットと調整が必要)中程度(ただし吸湿に注意)
単体造形での利用可能(耐衝撃性・研磨性に優れる)不可(強度が低く、溶解性が主目的)

この表からもわかるように、HIPSはABSやPCを使う上級者向け、PVAはPLA中心のユーザー向けという住み分けがはっきりしています。PVAは水で溶かせる手軽さがある一方、HIPSは溶剤の取り扱いというハードルがある代わりに、高温素材にしっかり対応できるのが強みです。

HIPSフィラメントを使うべきか?導入前に考えておきたいこと

HIPSは確かに強力なサポート材ですが、誰にでもおすすめできるわけではありません。導入を検討する際には、以下の点を踏まえて判断してください。

まず、マルチマテリアル対応のプリンターが必須です。ノズルが1つだけのプリンターでは、ABSとHIPSを切り替えて出力することができません。また、前述の通り造形難易度が高いため、ABSでの造形経験が十分にある中級者以上の方向けの素材と言えます。

その一方で、複雑な内部構造や細かいディテールを持つABS/PCパーツをキレイに仕上げたいというニーズには、HIPSは非常に有効な選択肢です。手作業のサポート除去ではどうしても傷がついてしまうような造形でも、溶解によってツルンと仕上げられます。

また、単体での造形材として見た場合、HIPSは塗装や研磨がしやすく、仕上げの自由度が高いというメリットもあります(Forward AM製品情報より)。サポート材としてだけでなく、一つの造形素材としても可能性を広げられる点は、知っておいて損はないでしょう。

まとめ:HIPSは「挑戦する価値のある」ハイレベル素材

HIPSフィラメントは、ABSやPCを扱う3Dプリンターユーザーにとって、仕上がりの質を一段階引き上げるポテンシャルを持った素材です。D-リモネンで溶かすというユニークな特性は、手作業では不可能なレベルのクリーンなサポート除去を実現します。

ただし、造形の難易度や溶解工程の注意点、廃液処理といったハードルもあるのも事実です。今回ご紹介したBASFのUltrafuse HiPSやキヤノンエコロジーインダストリーのリサイクルHIPSなど、製品ごとの特性をよく確認し、まずは小さなテストピースで練習を重ねてみてください。

HIPSは決して初心者向けの素材ではありませんが、その分、使いこなせたときの造形の幅は大きく広がります。高温素材での造形に慣れてきたら、ぜひ次のステップとしてHIPSに挑戦してみてはいかがでしょうか。

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